top of page

「LTV/CAC」今さら聞けないユニットエコノミクスの求め方



弊社では、クライアント企業のデジタルマーケティングの戦略立案や実行支援をしています。

支援先のクライアント企業と話をする中でたまに出てくるキーワードが「LTV/CAC >= 3」というSaaSの公式です。

LTVは1顧客から契約開始〜解約までに得られる利益、CACは1顧客から契約を獲得するために必要なコストのことです。

「LTV/CAC >= 3」は、お客さんから契約をしてもらうためにかけている費用の3倍は利益が出ているので、経営的に健全だよねということになります。

そして「ユニットエコノミクス」とは、この「LTV/CAC」を指します。


私自身は理論より実践派なので、「LTV/CAC >= 3」みたいな数式こねくり回すよりも、セミナー企画したり、記事書いたり、クリエイティブの改善をした方がリード獲得に繋がるよなと思ったりもしますが、ただ、100円の商品を買ってもらうのに100円の広告費用をかけていたら全く事業が成り立たないですし、新規受注はたくさん取れているけど、解約率も高いから実は全く採算が合ってなかったみたいなケースもありますので、事業成長の精度を高めるためのバロメータとして「LTV/CAC >= 3」を念頭においておくことは非常に重要です。


本記事は、事業責任者やマーケティングの責任者・実行者の方に向けて書いています。事業の成長、新規顧客獲得・リード獲得がミッションの方に参考になるように、「LTV/CAC >= 3」を具体的な数字を使いながら解説しています。

本記事の前半は「LTV/CAC >= 3」の解説、後半はその実践編ということで具体的な数字を用いてどのように設計を行うかをまとめました。


 

LTV、CACの捉え方

まず、認識齟齬がないよう各種指標の定義をしておきます。

LTV(Life Time Value):顧客生涯価値ですが、1顧客が契約を開始してから終了までに得られる利益です。LTVを算出する際に、売上から原価を引いた粗利を用いているケースもあるかもしれませんが、本記事では下記の考え方で算出をしています。


LTV = ①売上 - ②サーバー費用等のシステム原価・仕入原価 - ③開発部門の人件費(減価償却分でも可) - ④オンボーディング・継続に関連するCS関連の人件費 - ⑤管理部門の人件費(*按分)

個別に見ると、以下のようになります。

  • ①は顧客への請求金額

  • ②はAWSなどのサーバー費用や、サービスの支払いに利用している決済システムがあればその費用、OEMなどで外部のサービスを仕入れている場合はその費用

  • ③開発部門の人件費は、サービスの立ち上げ期は資産計上することが多いかと思いますが、減価償却のタイミングになればその消却費

  • ④はツールのアカウント発行、初期設定、顧客関係者に対する説明会などの費用から、既存顧客からの問い合わせにZendeskなどの問い合わせツールを利用している場合はそのシステム費用や、カスタマーサポート(カスタマーサクセス)部門の人件費

  • ⑤は、経理・労務などの人件費ですが、こちらは開発部門・CS部門の人員(人件費)の割合に応じて按分をしたものをマイナス


具体的な数値で試算してみます。

平均契約期間が24ヶ月、平均月次売上が10万円のサービスで(生涯顧客売上:240万円)、システム原価が7.5%(18万円)、開発関連費用(開発人件費等)が72万円/顧客、オンボーディング含むCS費用が24万円/顧客、管理部門費用が売上の2.5%(6万円)とすると、LTVは下記のように算出されます。


LTV = ¥2,400,000 (①売上) - ¥180,000 (②サーバー費用等のシステム原価・仕入原価) - ¥720,000 (③開発部門の人件費(減価償却分でも可)) - ¥240,000 (④オンボーディング・継続に関連するCS関連の人件費) - ¥60,000 (⑤管理部門の人件費(*按分)) = ¥1,200,000 (売上比率:¥1,200,000 ÷ 2,400,000 = 50%)

立ち上げ後5年以上経過しているようなサービスだと、LTVの対売上比率はもっと高いと思いますが、立ち上げ1~2年後のサービスだと上記の48%のように、LTVが売上の50%を切っているケースも往々にしてあるかなと思います。



 

次にCACを見ていきます。CAC(Customer Acquisition Cost):1顧客から契約を獲得するためにかかる費用です。こちらも要素分解すると、以下全て新規顧客獲得に投下している割合で按分している前提ですが、下記のようになります。


CAC = (1)広告費用・マーケティングツール費用・営業管理ツール費用 + (2)マーケティング・営業部門の人件費・管理部門の人件費(按分)

1つずつ見ていきます。

  • (1)には、Google・Yahoo・Facebook広告の媒体費用、代理店を利用している場合は代理店Fee、新規獲得向けにWeb接客ツールやLPO(ランディングページ最適化)ツール、マーケティングオートメーションを導入している場合はそのシステム費用が含まれます。また、SFAなどの営業進捗管理ツールを導入している場合はその費用が該当します。SFAは経営指標を見るためにレポーティングツールとしても利用されているケースもあると思いますので、その場合は新規顧客獲得向けに利用している割合は50%とするなどしてツール費用を按分します。また、展示会などを行う際には、その出展費用や販促物の費用も含めた方が良いでしょう。

  • (2)は、マーケティング・営業部門で、新規顧客獲得に向けて動いているメンバーの人件費(兼任の場合は稼働割合で按分)が含まれます。


CACについても具体的な数値で試算してみます。

  • (1)1リードを獲得するために必要な広告関連費用(広告・SEO・サイト運用・展示会)は、リード単価1.25万円、月に新規リードを200件獲得できる場合は場合は250万円/月となります。その他、サイト運用費用(SEO対策費・デザイン製作などの外注費など)、マーケティングツール・営業管理ツール費用で75万円/月として、両者を合算すると、325万円/月になります。

  • (2)マーケティング・営業部門の人件費・ツール費用は、マーケティング部門が2名、新規向け営業が3名とすると1名あたりの人件費を50万円/月とすると250万円/月管理部門人件費を按分した費用25万円/月とすると、人件費関連費用で275万円/月となります。

CAC = ( (1)¥3,250,000 + (2)¥2,750,000 ) ÷ 10 = ¥600,000

仮置きした数字で算出したCACとLTVは、下記のようになります。

LTV = ¥1,20,000CAC = ¥600,000 →LTV/CAC = 2.0

LTV/CACが3よりも小さくなっていますね。。

このような場合はLTV、CACを改善するための対策は別の記事で深ぼってみたいと考えていますが、例えば対策が考えられます。


▼LTVを改善する

  • サーバー原価を抑える、仕入コストを抑える

  • CS部門の対応効率を上げる


▼CACを改善する

  • 営業メンバーの底上げを行い受注率を高める

  • マーケ部門を外注して人件費を下げる


 

LTV、CACのよくある勘違い


上記に定義を記載しましたが、私が過去見てきた勘違いとしては、

  • LTVからCS部門、管理部門のコストが引かれていない

  • CACに、マーケティング部門や営業部門で利用しているシステムのコストが加えられていない

などがあり、LTVがより大きく、CACがより小さく算出され、実際よりもLTV/CACが大きく算出されているケースなどがあります。


仮に次のように考えてみます。

自社で販売するシステムを外部から仕入れて、それを拡販するマーケティング・営業人材、契約後の支援をするCS部門を全て外注する。

この場合であれば、LTVを考える際には、売上からシステム原価やCS部門の外注費用を売上から差し引いて考えるのが合理的ですし、マーケティング・営業費用も外注費用と考えると、何がCACに含まれるかが分かりやすくなります。

思考整理の方法として、事業に関わる全ての業務を一度全てを外部に委託する場合を考えてみるとシンプルで分かりやすいかもしれません。



 

実践編

LTV、CACの定義は分かったけど、具体的にどのような手順でLTV、CACを算出していければ良いでしょうか。意外と骨の折れる作業になるため、それぞれどのように算出するのか、もう少し深掘りして解説します。


【LTV】「LTV = 生涯売上 - 生涯原価」ですので、生涯売上、生涯原価に分けて考えます。


<生涯売上の算出>

サービスの顧客あたりの月次売上(MRR、リカーリング部分のみ)を、平均解約率で除する。MRRが10万円/顧客、月次解約率が4.2%の場合(= 平均継続月数が24ヶ月の場合)、

▼初期費用が0円の場合 顧客あたりの生涯売上 = ¥100,000 ÷ 4.2% = ¥2,400,000 *初期費用(30万円)が発生する場合 顧客あたりの生涯売上 = ¥300,000 + ¥200,000 ÷ 4.2% = ¥2,700,000

企業によっては、すでにサービス提供から3年以上経過しており、過去の解約顧客が一定数以上いることもあるかと思います。

その場合は解約顧客を生涯売上を、LTVを算出するためにの生涯売上として利用してもよいかと思います。


<原価の算出>

サービス提供・顧客の維持に関わる費用は原価として扱うべきです。

前のパートにも記載しましたが、原価には、サーバーなどのシステム費用、エンジニア人件費、CS部門人件費・ツール費用、管理部門の人件費(*按分)が含まれます。


まず、AWSなどのサーバー代、GitHubなどのコード管理ツール、その他開発管理などを行うためのツールの費用を把握しましょう。

開発メンバーの人件費は、税法会計的に資産化して、数年かけて減価償却するケースもあるかと思いますが、LTVを考える上では発生したタイミングで費用計上した方が良いと思います。

理由は、費用計上を後回しにすることで見かけ上は、利益が出ているように映ったとしても、キャッシュフローが全然回っていない可能性もあり、実態に基づいて事業計画を立てることが重要だと考えるからです。


また、管理部門の人件費は、開発・CS部門の人数に応じて按分した上で原価に含めます。

例えば、全社員が20名で、対象サービスのエンジニア・CSが5名(エンジニア3名、CS2名)、管理部門が2名いる場合は、管理部門2名の人件費に、25%(=5/20 *5名はエンジニア+CS)を掛け算すれば、按分後の管理部門人件費を算出することができます。


また、CS部門に所属するメンバーであっても、対象サービスのCS業務以外の業務を行なっている場合は、その割合でCS人件費を按分するのが良いでしょう。


上記を踏まえて、原価を算出すると、

▼サーバー代等、開発関連のシステム費用 + エンジニア人件費(4名)/月 ¥750,000 + ¥1,000,000 × 3名 = ¥3,750,000 /月 ▼CSシステム費用 + CS部門人件費(2名) /月 ¥0 + ¥500,000 × 2名 = ¥1,000,000 ▼管理部門人件費(按分割合:20%)/月 ¥500,000 × 2名 × 25% = ¥250,000 ▼契約企業数を100社とすると1顧客あたりの原価は、 (¥3,750,000 + ¥1,000,000 + ¥250,000) × 24ヶ月 ÷ 100 = ¥1,200,000/顧客

<LTVの算出> 「LTV = 生涯売上 - 生涯原価」ですので、LTVは下記のように算出されます。

LTV = ¥2,400,000 - ¥1,200,000 = ¥1,200,000

【CAC】<顧客獲得(契約獲得)までのフローの整理>

本記事では、セールスのパイプラインを下記のフローで考えます。

①リード   ↓(有効リード率) ②有効リード   ↓(商談化率) ③商談  ↓(受注率) ④受注・契約

CACは、1顧客から契約獲得するまでに①〜④で要したコストの合計金額になります。①〜④のコストについて順に見ていきます。


<①リード単価>

リード獲得する上での主要な施策は、WEB・リアルそれぞれ代表的なものを上げていくと、 ▼WEB 

  • コンテンツマーティング(SEO) 

  • デジタル広告 

  • ウェビナー 


▼リアル(WEB以外) 

  • 展示会

  • 紹介

などがありますが、各施策で1件連絡先を獲得するまでの費用を「リード単価」として考えます。

各施策ごとに、リード単価が異なってきますので、効率よく、かつ必要数を確保できる施策を行なっていくかがマーケターとしての腕の見せ所になります。

商材やチャネルによっても異なりますが、BtoBであればリード獲得単価は、5,000円〜5万円程度に収まることが多いのではないかと思います。


<②有効リード単価>

有効リードは、リードのうち、新規顧客には繋がらないものを除外したリードのことです。

有効リードではないものを規定すると、

  • 既存顧客

  • 営業系

  • 個人

  • 投資家(上場企業の場合)

  • 報道関連

などがあります。このようなリードを除くと有効リード数を算出することができます。

この有効リード率は、企業によっても異なるかと思いますが、私の経験上は30 ~ 50%程度に収まることが多いです。


<③商談単価>

ニーズをヒアリングした上で商談にこぎつけるまでの費用が商談単価となり、商談単価 = 有効リード単価 ÷ 商談化率で算出されます。

リードソースによって商談化率は異なるかと思いますが、概ね20 ~ 40%程度に収まるのではないかと思います。


<④受注単価>

契約を獲得するまでの総費用が受注単価になり、受注単価 = 商談単価 ÷ 受注率で算出されます。受注率は概ね20 ~ 50%程度になるのではないかと思います。


上記を踏まえて、CACを考えていきます。

CACには、新規顧客獲得に携わるマーケティング部門、営業部門の全ての費用を含めます。

マーケティング部門では、リスティング広告・SNS広告などのデジタル広告、展示会出展費用、サービスサイト運用費用やマーケティングツールのシステム費用、メンバーの人件費が含まれます。

営業部門では、営業で利用する販促物・資料等の費用、営業進捗を管理するSFAなどのシステム費用、メンバーの人件費が含まれます。

また、管理部門の人件費もLTVを考えた際と同様に、マーケティング・営業部門の人数に応じて按分した上で原価に含めます。先ほどと同様に全社員が20名で、対象サービスのマーケターが2名、新規営業が3名、管理部門が2名いる場合は、管理部門2名の人件費に、25%(=5/20 *5名はマーケター+営業)を掛け算すれば、按分後の管理部門人件費を算出することができます。

(1)広告費用、ウェビナー、展示会費用/月(展示会費用はQ1回程度、1回150万円とする) ¥2,000,000 + ¥0 + ¥500,000= 2,500,000/月 (2)マーケティングツール費用、サービスサイト運用費用、SEO対策費用/月 ¥500,000/月 (3)マーケティング部門人件費/月 ¥500,000 × 2 = 1,000,000/月 (4)営業管理ツール・営業関連費用/月 ¥250,000/月 (5)営業部門人件費/月 ¥500,000 × 3 = 1,500,000/月 (6)管理部門人件費/月(按分) ¥500,000 × 2 × 25% = 250,000/月

上記費用をかけて、月平均200件のリード(有効リードではなく、リード)が獲得できているとすると、①〜④の指標は下記のように算出できます。

①リード単価 (1) + (2) + (3) = ¥4,000,000¥4,000,000 ÷ 200 = ¥20,000 ②有効リード単価(有効リード率:50%) ¥20,000 ÷ 50% = ¥40,000 ③商談単価(商談獲得率:20%) (4) + (5) + (6) = ¥2,000,000/月 →1有効リードあたり、¥2,000,000 ÷ 100 = ¥20,000 (有効リード単価:¥40,000 + ¥20,000)÷ 20% = ¥300,000 ④受注単価(受注率:50%) ¥300,000 ÷ 50% = ¥600,000

上述のLTVとCACを計算すると、LTVが120万円、CACが60万円で、LTV/CACは2.0になりますね。


いかがでしたでしょうか。

上記の計算をやり切るには、会社の売上や費用を把握できていないと難しく、全て埋められないよ、という方もいらっしゃるかと思います。

そんな時は、仮置きでも構わないので、まずは数字を入れてみるところから始めてみてください。エクセルなどで数式を組んでおければ、変数部分は後から入れることもできるかと思います。

長文になりましたが、最後まで記事を見ていただきありがとうございました。


Comentários


Os comentários foram desativados.
bottom of page